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大阪地方裁判所 昭和41年(ワ)4409号 判決 1978年9月29日

原告 吉田勲

右訴訟代理人弁護士 松浦武

右訴訟復代理人弁護士 武藤知之

同 谷正道

被告 株式会社近畿相互銀行

右代表者代表取締役 吉澤新作

右訴訟代理人弁護士 松永二夫

同 宅島康二

被告 株式会社三和銀行

右代表者代表取締役 上枝一雄

右訴訟代理人弁護士 小林寛

同 久保井一匡

被告 株式会社百五銀行

右代表者代表取締役 金丸吉生

右訴訟代理人弁護士 本庄修

被告 三重県信用農業協同組合連合会

右代表者理事 山羽幸助

右訴訟代理人弁護士 吉住慶之助

右訴訟復代理人弁護士 吉住信百

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告らは原告に対し、連帯して金二五〇万円およびこれに対する昭和三八年二月一五日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

2  被告株式会社近畿相互銀行、同株式会社三和銀行、同株式会社百五銀行は原告に対し、連帯して金五〇〇万円およびこれに対する昭和三八年二月一五日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行宣言

二  被告全員

主文と同旨

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  原告は、昭和三八年一月二八日、訴外松村衡一から裏書譲渡を受けた左記為替手形三通を、山中隆美名義で、被告株式会社近畿相互銀行(以下、被告近畿相互という。)に取立委任した。

(一) 第一手形

金額    二五〇万円

支払人兼引受人 神前浦農業協同組合(以下、神前浦農協という)

満期    昭和三八年一月三一日

支払地および振出地 三重県度会郡南島町

受取人および振出人 浜地喬

振出日    昭和三七年九月一日

第一裏書人   浜地喬

第一被裏書人および第二裏書人

松村衡一

第二被裏書人  原告

(第一裏書、第二裏書とも拒絶証書作成免除)

(二) 第二手形

金額    二五〇万円

満期    昭和三八年二月一一日

その他は全部第一手形と同じ

(三) 第三手形

金額    二五〇万円

満期    昭和三八年二月一五日

その他は全部第一手形と同じ

2  ところが、右各手形は、被告近畿相互からさらに左記のとおり順次取立委任された。

(一) 第一手形

(1) 昭和三八年一月二九日被告近畿相互から被告株式会社三和銀行(以下、被告三和銀行という。)へ。

(2) 同日被告三和銀行から被告株式会社百五銀行(以下、被告百五銀行という。)へ。

(3) 同年二月四日被告百五銀行から被告三重県信用農業協同組合連合会(以下、被告三重県信連という。)へ。

(二) 第二手形

(1) 昭和三八年二月七日被告近畿相互から被告三和銀行へ。

(2) 同日被告三和銀行から被告百五銀行へ。

(3) 同月一一日被告百五銀行から被告三重県信連へ。

(三) 第三手形

(1) 昭和三八年二月一一日被告近畿相互から被告三和銀行へ。

(2) 同日被告三和銀行から被告百五銀行へ。

(3) 同月一八日被告百五銀行から被告三重県信連へ。

3  かようにして、被告三重県信連は、第一手形を昭和三八年二月五日ごろ、第二手形を同月一四日、第三手形を同月一九日に、それぞれ支払場所に呈示したが、いずれもその支払を拒絶された。

4  そこで原告は、右各手形の振出人であり第一裏書人である浜地喬に対し、遡求権を行使するため、神戸地方裁判所に訴を提起したが(同庁昭和三八年(ワ)第六八八号為替手形金請求事件)、右各手形とも支払呈示期間内に呈示されていないことを理由に敗訴し、その判決は確定したため、原告は浜地喬に対する遡求権を喪失し、これにより右各手形金およびこれに対する各満期以後年六分の割合による法定利息金相当の損害を被った。

5  手形の取立委任を受けた銀行等は、当該手形を支払呈示期間内に支払場所に呈示して、手形所持人の遡求権を消滅させないようにする善良な管理者としての注意義務があり、また、自らこれを取立てることなくさらに取立委任する場合には、復代理人の選任として受任者の選任監督につき責任を負うべきものであるところ、被告らはいずれも右の受任義務に違反して、前記経緯により第一ないし第三手形を支払呈示期間内に呈示することなく右期間を徒過し、よって原告の浜地喬に対する遡求権を喪失させたのであるから、被告らはこれにより原告が被った損害を賠償する責任がある(ただし、被告三重県信連が第一、第三の各手形の取立委任を受けたのは、右各手形の呈示期間満了後であったから、右各手形については、同被告は遡求権消滅についての責任を負わない)。

6  よって、原告は、被告全員に対し、第二手形についての受任義務違反による損害賠償として、連帯して右手形金二五〇万円およびこれに対する満期以後である昭和三八年二月一五日から完済まで手形法所定年六分の割合による法定利息金に相当する損害金の支払を、また、被告近畿相互、同三和銀行、同百五銀行に対し、同様に、第一、第三手形についての受任義務違反による損害賠償として、連帯して右手形金計金五〇〇万円およびこれに対する満期の後である昭和三八年二月一五日から完済まで右同様年六分の割合による利息金に相当する損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告らの認否

1  請求原因1について

(被告近畿相互、同百五銀行)

被告近畿相互が第一ないし第三手形の取立委任を受けたことは認めるが、取立委任者は原告ではなく山中隆美であり、また、右各手形はいずれも、後記のとおり、当時振出日欄は白地のままであった。その余の事実は不知。

(被告三和銀行、同三重県信連)

全部不知。

2  請求原因2について

(被告近畿相互、同百五銀行)

認める。

(被告三和銀行)

被告三和銀行が、原告主張の日に被告近畿相互から第一ないし第三手形の取立委任を受け、原告主張の日にさらにこれを被告百五銀行に取立委任したことは認めるが、その余は不知。

(被告三重県信連)

被告三重県信連が、原告主張の日に第一ないし第三手形の取立委任を受けたことは認めるが、その余の事実は不知。

3  請求原因3について

(被告全員)

第一ないし第三手形がいずれも支払呈示期間経過後に呈示されたことは認めるが、具体的日時は不知。

4  請求原因4について

(被告全員)

原告が第一ないし第三手形の遡求権を喪失したことは認めるが、これにより原告主張の損害を被ったことは否認する。

5  請求原因5について

(被告全員)

否認する。

三  被告らの主張

1  (被告三重県信連)

本件各手形の振出人および第一裏書人欄の浜地喬の記名捺印は偽造であって、浜地喬は遡求義務を負わないから、原告の請求は理由がない。

すなわち、本件各手形は、松村衡一ほか数名の者が手形金詐取の目的で共謀し、浜地喬に対し金融をなす意思も能力もないのにこれあるように装って、詐言を用いて同人から印鑑を騙取し、これを使用して振出人および第一裏書人欄に同人の記名押印を冒用して偽造したもので(引受欄の記名捺印も偽造である)、かつ、原告は、松村らの手形金詐取の意図を知り、右の部分が偽造であることをも知って、これに協力するため、何ら原因対価関係なくして右各手形を取得したものである。

2  (被告百五銀行、同三重県信連)

本件各手形の振出人欄および第一裏書人欄には浜地喬の記名捺印があるが、同人は右各手形を流通に置く意思を有していなかったものであり、原告もこれを知っていたから、遡求権は発生しない。

3  (被告全員)

本件各手形の振出日はいずれも昭和三七年九月一日と記載されているが、元来右各手形とも振出日を白地として振出され、被告三重県信連が右各手形を支払場所に呈示したときにも、いまだ振出日は未補充のままで手形要件を欠いていたのであり、その後に至り原告がこれを記入したものであるから、かりに右各手形が呈示期間内に呈示されていたとしても、呈示の効力を生ぜず、遡求権は発生しないので、遡求権の喪失を前提とする原告の請求は理由がない。

なお、被告らは、右振出日を補充する義務を負うものでもない。

4  (被告全員)

浜地喬は当時から無資力であり、原告が遡求権を喪失しなかったとしても、浜地から遡求金額を回収することは不可能であったから、遡求権の消滅により原告がその主張の損害を被ったものとはいえない。

5  (被告百五銀行、同三重県信連)

原告は、神戸地方裁判所昭和三八年(ワ)第六八八号為替手形金請求事件において、引受人神前浦農協および振出人兼第一裏書人浜地喬に対する関係では敗訴したが、第二裏書人たる松村衡一に対する関係では全部勝訴したのであるから、いまだ何ら損害を被っていない。

6  (被告全員)

手形の取立委任を受けた金融機関が、取立のため遠隔地の金融機関にその手形を送付する際、郵便による方法をとることは、全国の金融機関において慣行として一般に行なわれているところであり、原告も当然これを知っていたはずであるから、原告が、右慣行を考慮して適当な猶予期間をおいて被告近畿相互に取立委任していたならば、本件のように取立委任が再三くり返されても、充分呈示期間内に呈示することができたのに、原告は満期の切迫した昭和三八年一月二八日に取立委任をしたものであって、本件各手形が支払呈示期間内に呈示できなかったのは原告自身の過失によるものというべく、被告らの受任義務違反によるものではない。

7  (被告近畿相互)

一般に、銀行は、取立委任を受けた手形を、受任と同時に仕向銀行に取立委任せず、満期直前までこれを保管して仕向銀行にまわす慣行があり、本件各手形の取立委任を受けた被告近畿相互の神戸支店では、右慣行に従い、同所を支払地とする手形については満期前日まで、中間地(大阪、京都)を支払地とするものについては満期二日前まで、遠隔地(その他の近畿地方)を支払地とするものについては満期四日前まで留置のうえ、仕向銀行に取立委任していたので、本件各手形も右取扱に準じ、原告主張の日(第一手形については取立委任を受けた翌日、第二、第三手形については満期の四日前)に被告三和銀行に取立委任したのであるから、被告近畿相互には何ら受任義務違反はない。

8  (被告三和銀行)

被告三和銀行が被告近畿相互から受任した事務は、呈示期間内に間に合うよう手形を呈示することではなく、自行の為替契約のルートを通じて手形を取立に付することであった。従って、被告三和銀行が復代理人として本人たる原告に対して負う義務の範囲も、右の被告近畿相互に対して負う義務の範囲に止まる。

9  (被告百五銀行)

被告百五銀行が被告三和銀行から本件各手形の取立委任を受け、さらにこれを被告三重県信連に取立委任した経緯は、次のとおりである。

(一) 第一手形(満期昭和三八年一月三一日)は、同月二九日取立委任のため被告三和銀行の神戸支店から被告百五銀行の錦支店に郵便に付され、同年二月一日錦支店に到達したので、同支店では直ちに、最寄りの被告三重県信連の伊勢支所の所在する被告百五銀行の伊勢支店に転送したところ、同月三日伊勢支店に到達したが、同日は日曜日であったため、同支店では翌四日これを開封のうえ、即日被告三重県信連の伊勢支所に取立委任した。

(二) 第二手形(満期昭和三八年二月一一日)は、同月七日取立委任のため被告三和銀行の神戸支店から被告百五銀行の錦支店に郵便に付され、同月九日錦支店に到達したが、前同様同支店は直ちにこれを伊勢支店に転送し、同月一一日同支店に到達したので、同支店は即日被告三重県信連の伊勢支所に取立委任した。

(三) 第三手形(満期昭和三八年二月一五日)は、同月一一日取立委任のため被告三和銀行の神戸支店から被告百五銀行の錦支店に郵便に付され、同月一四日錦支店に到達したので、前同様同支店は直ちにこれを伊勢支店に転送し、同支店には同月一六日の営業終了後に到達したが、同月一七日が日曜日であったため、同支店では翌一八日これを開封のうえ、即日被告三重県信連の伊勢支所に取立委任した。

ところで、一般に、農業協同組合を支払場所とする手形の取立は、その農業協同組合を管轄する県信用農業協同組合連合会支所のある所在地の支店を通じて、その支所に手形を持参し、取立を依頼する(本来、為替決済制度に加盟していない農業協同組合を支払場所とする手形の取立は、地理的にも遠隔地にある場合が多く、銀行においては取立不可能なものであるが、好意的に上記の取立経路によって取扱うことがある。)のであって、本件手形の場合、受託店たる被告百五銀行の錦支店は、支払場所から遠く隔っており、かつ、呈示期間にも余裕がなかったため、取立を拒否してもよかったのであるが、いずれも金融機関引受の手形であったので、全く好意的に受任し、いずれも即日伊勢支店に転送し、同支店から被告三重県信連に取立を依頼したもので、被告百五銀行に受託店としての義務違反はない。

10  (被告三重県信連)

被告三重県信連の伊勢支所が、被告百五銀行から取立のため第二手形の郵送を受けたのは昭和三八年二月一二日の午後四時過ぎであり、被告三重県信連は右手形を通常の取立事務に従い、同月一三日午後四時前までに支払場所に宛て郵便で発送した。被告三重県信連の伊勢支所の所在地である三重県伊勢市から宛先の同県度会郡南島町神前浦に郵便が到達するのは、同月一四日であるから、右手形の呈示期限である同月一三日を経過することは通常の事態に属し、被告三重県信連には何ら受任義務違反はない。

11  (被告三重県信連)

手形の再取立委任を受けた者は、その再取立委任をした者の履行補助者にすぎない。従って、本件において、被告三重県信連は原告に対し直接責任を負うものではない。

12  (被告全員)

被告らは、それぞれ本件各手形の取立委任を受ける際、その委任者との間で、郵便物の延着、紛失その他の事故のために生じた損害については責任を負わない旨の特約をしていた。そして、右特約は公序良俗に反するものではない。

13  (被告三和銀行)

被告三和銀行は、被告近畿相互から本件各手形の取立委任を受ける際、同被告との間で、本件各手形を支払拒絶証書作成期間内に呈示する義務を負わない旨の特約をしていた。

14  (被告百五銀行)

被告百五銀行は、被告三和銀行から本件各手形の取立委任を受ける際、同被告との間で、他所払手形については呈示義務を負わない旨の特約をしていた。そして、本件各手形の取立受託店は被告百五銀行の錦支店であり、その支払場所である神前浦農協は右錦支店の所在地外にある。

四  被告らの右主張に対する原告の主張

1  いずれも否認する。

2  被告らの主張3につき、本件各手形の振出日は、原告が被告近畿相互に取立委任する直前に、原告においていずれも補充したものである。

かりに、右各手形の振出日が白地のままであったとしても、被告らは善良な管理者としての注意義務をもって取立をすべき義務があるのであるから、自らこれを補充するか、少なくとも原告に補充するよう注意する義務を有していたというべきであり、これを怠った被告らにはいずれにしても受任義務違反がある。

3  被告らの主張12のような特約がかりになされていたとしても、右は公序良俗に反し、無効である。

第三証拠《省略》

理由

一  《証拠省略》を総合すると、次のように認められる。すなわち、原告は昭和三八年一月二八日被告近畿相互の神戸支店に対し、山中隆美名義で、請求原因1記載の為替手形三通(第一ないし第三手形)(ただし、その振出日欄の記載の点については後述)の取立委任をしたこと(被告近畿相互が右各手形の取立委任を受けたことは、被告近畿相互、同百五銀行との間では争いがない)、右各手形は、その後いずれも被告近畿相互の神戸支店から被告三和銀行の神戸支店に対し取立委任され、被告三和銀行の神戸支店は、さらに被告百五銀行の錦支店に対しこれを郵送して取立委任したこと、次いで、被告百五銀行の錦支店はこれらの手形を被告百五銀行の伊勢支店へ転送し、被告百五銀行の伊勢支店はさらに被告三重県信連の伊勢支所に対しその取立委任をしたこと、そこで、被告三重県信連の伊勢支所は、これらの手形を支払場所である神前浦農協に郵送し、支払のための呈示をしたが、いずれもその支払を拒絶されたこと、右各手形がそれぞれの被告らのもとに発着した年月日、および右支払のための呈示の日は、末尾の別表記載のとおりであること(本件各手形が、それぞれの日に、被告近畿相互から被告三和銀行へ、被告三和銀行から被告百五銀行へ、順次取立委任されたことは、被告近畿相互、同三和銀行、同百五銀行との間では争いがなく、また、本件各手形が、それぞれの日に、被告百五銀行から被告三重県信連へ取立委任されたことは、被告近畿相互、同百五銀行、同三重県信連との間では争いがない。そして、本件各手形がいずれも支払呈示期間経過後に呈示されたことは、被告全員との間に争いがない)、かように認められる。

二  そして、《証拠省略》によれば、原告は、本件各手形の引受人である神前浦農協、振出人兼第一裏書人である浜地喬、第二裏書人である松村衡一の三名を相手どって、神戸地方裁判所に対し右各手形金請求の訴を提起したところ(同庁昭和三八年(ワ)第六八八号為替手形金請求事件)、松村衡一に対する関係では、同人欠席のため原告勝訴の判決が、また、神前浦農協に対する関係では、引受が偽造であることを理由に、浜地喬に対する関係では、支払呈示期間内に支払のための呈示がなされたことを認めるにたる資料がないことを理由に、いずれも原告敗訴の判決がなされ、同判決はいずれも確定したことが認められる。

三  ところで、原告は、本件各手形の振出日昭和三七年九月一日の記載は、原告がこれらを被告近畿相互に対し取立委任する直前に、原告において白地補充したものである旨を主張し、原告本人もこれにそう供述をしている。

しかしながら、《証拠省略》によれば、被告近畿相互の神戸支店が昭和三八年一月二八日原告から本件各手形の取立委任を受けた際に記帳した同支店備付の他所代金取立手形記入帳、次いで、被告三和銀行の神戸支店が被告百五銀行の錦支店に対し右各手形の取立委任をする際に作成して送付した取立手形送達状、被告百五銀行の錦支店が同銀行の伊勢支店に対しこれらの手形を転送する際に作成して送付した送達状、さらに、被告三重県信連の伊勢支所が被告百五銀行の伊勢支店からこれらの手形の取立委任を受けた際に記帳した同支所備付の代金取立記入帳、以上の各帳簿類等には、本件三通の手形について、他の手形要件の記載はあるが、振出日を記載すべき欄のみがいずれも空欄のままであること、そして、ほかに被告らの帳簿類等でこれらの手形についてその振出日の明記されたものは見当らないこと、などの事実が認められるのであって、これらの事実と《証拠省略》および前掲甲第一ないし第三号証(本件第一ないし第三手形)の各振出日の記載状況とを総合すれば、前記原告本人の供述はとうてい信用することができず、本件各手形の振出日欄は、原告が被告近畿相互に取立委任した当時はもち論、その後順次被告らの手を経て支払のため呈示された当時においても、なお白地のままであったものと認めるのが相当であり、ほかに右認定をくつがえすにたる証拠はない。

そして、為替手形の所持人がその前者(裏書人ないし振出人)に対し遡求権を行使するためには、支払呈示期間内に支払人(引受人)に対し適法な支払の呈示をする必要があるが、本件各手形が、前記のとおり、呈示の際振出日白地のままであったと認められる以上、その呈示は、たとえ支払呈示期間内になされたとしても、適法な呈示とはなりえないものであったことが明らかである。

従って、支払呈示期間内に呈示があれば、遡求権を保全できたことを前提とする原告の主張はこの点において失当である。

四  原告は、手形の取立委任を受けた被告らは、当該手形の振出日が白地のままであったとすれば、自らこれを補充するか、少なくとも委任者たる原告に右補充をするよう注意すべき義務を負う旨を主張する。

しかし、《証拠省略》によれば、被告近畿相互の神戸支店は、その取引先である原告に対するいわばサービスとして、無償で、原告から本件の取立委任を受けたものであること、また、一般に、確定日払の手形で振出日白地のものの取立委任を受けた銀行は、委任者からの特別の指示等のない限り、自らその白地を補充したり、ないしは委任者に補充するよう注意を促すなどの措置をとらないのが、通常行なわれている取扱であること、が認められるのであり、これらの事実からみても、白地補充権は白地手形とともに移転するわけであるから、右のような白地手形の取立委任を受けた銀行が、自ら白地を補充する権限を有することはいうまでもないとしても、特段の事情のない限り、その受任義務のなかに、当然に、白地補充の義務や補充を促す義務などが含まれているものと解することはできないから、原告の右主張は失当である。

五  そうすると、原告の本訴請求は、その余の判断をするまでもなく、すべて理由がないので、いずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松田延雄 裁判官菊池信男、同池田勝之はいずれも転補のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 松田延雄)

<以下省略>

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